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2021.03.03
ゆうちょ通帳アプリのDX事例に見るデザイン思考の現実解 – NTT DATA Innovation Conference 2021 登壇レポート
2021年1月28日(木)にオンライン開催された「NTT DATA Innovation Conference 2021」に、フォーデジット取締役の末成武大が登壇しました。「グッドデザイン賞受賞の軌跡 ― ゆうちょ通帳アプリのDX事例に見るデザイン思考の現実解」と題して、フォーデジットがデザインパートナーとして参画した「ゆうちょ通帳アプリ」の開発事例をご紹介。NTTデータ青柳雄一様とともに、DX(デジタルトランスフォーメーション)プロジェクトにおけるデザイン思考の取り入れ方についてディスカッションしました。(以下敬称略)
青柳 雄一 - Yuichi AOYAGI
第一金融事業本部
郵政・政策金融事業部 部長
末成 武大 - Takehiro SUENARI
取締役
どうやってデジタル人材を育成するか?
NTTデータ青柳:
本日のテーマは「ゆうちょ通帳アプリのDX事例に見るデザイン思考の現実解」ということで、実際のDX事例を紐解きながら対談形式でお話しします。
金融機関様のデジタルケイパビリティ獲得に向けた課題を考えたときに、必要なのはリソース(人材)、オファリング(サービス・メソッド)、ファンクション(組織・風土)の三つです。今回は特に人材の話をさせていただきたいと思います。
デジタル人材と聞いてイメージされるのは、先進的な研究をしていたり、専門的な開発技術を持った人材ではないでしょうか。我々は「デジタルコア人材」と呼んでいますが、そういった人材だけでDX改革がドライブできるかというと、必ずしもそうではありません。「デジタル専門人材」「デジタル活用人材」、こういった層が厚くなければ、企業のDXは成し遂げられないと考えています。
ではこの「デジタル専門人材」「デジタル活用人材」を、企業の中でどう育成するのか?この部分をお悩みの方が多いかと思います。そこで今回、ゆうちょ銀行様の開発プロセスを一事例としてご紹介します。
ゆうちょ通帳アプリの開発プロジェクトがスタートしたのは2018年11月頃ですが、その約2ヶ月前、2018年8月に「アイデア創発ワークショップ」というものを行いました。NTTデータのオープンイノベーション支援プログラム「DCAP®️ for Digital」という、デザインシンキングのプロセスを用いてアイデア創出のノウハウを支援するものです。ペルソナを深掘りし、アイデアを創出し、プロトタイプを作るという一連のプロセスを、ゆうちょ銀行の行員様に実体験いただきました。
ワークショップを通じてデザインシンキングへの理解を深めていただき、開発プロセスでは、ゆうちょ銀行の行員様、我々NTTデータ社員、フォーデジットの皆さんとが、ディスカッションしながらUI/UX開発を進めていきました。つまりワークショップに参加いただいたゆうちょ銀行の行員様にアプリ開発の中核となっていただくことで、ワークショップからアプリ開発プロセスまでが一連の人材育成、OJTにもなっているわけです。
先ほどのデジタル人材の図でいうと、今回は「デジタルコア人材」のところを我々NTTデータやフォーデジットさんの技術を持ったメンバーがお支えする。その一方で、ゆうちょ銀行の行員様が「デジタル専門人材」「デジタル活用人材」となり、中核メンバーとなっていただきました。
こうして三位一体でオープンイノベーションを進めながら、デザインケイパビリティを強化して開発に取り組むことができた、というのが今回のプロジェクトの肝なのかなと思っています。
ユーザーを目の前にしたことで、180度変わった
NTTデータ 青柳:
そんな風にして始まったプロジェクトでしたが、プロジェクトメンバーであるゆうちょ銀行の行員様とお会いした時のファーストインプレッションはどうでしたか?
フォーデジット 末成:
良い意味で意外だったというのが正直なところです。やっぱり銀行という業態のイメージから、硬さが多少あるのかなと想像していたのですが、なんだか場が暖まっているというか。デザインに取り組む姿勢が醸成されている状態だな、という第一印象を受けたのを覚えています。
NTTデータ 青柳:
そう意味ではプロジェクト開始前のワークショップで、デザインシンキングのプロセスをご理解いただいていたのが功を奏したと言えるのではないでしょうか。とはいえプロジェクトスタート時は、デザインの考え方とクライアント様の求める姿のギャップはあったように思います。
フォーデジット 末成:
そうですね、機能の話というのは左脳的で整理して共有しやすいのですが、体験がどうあるべきという話は右脳的で、視点を揃えるのが難しい部分です。そういったものを我々デザインのチームがすばやく可視化してシェアすることで、乗り越えてきたと思っています。
NTTデータ 青柳:
プロジェクトスタート時は、どうしてもテクニカルなハウツーや、進め方の部分を気にされるクライアント様は多いです。しかしプロジェクトが進んでいくにつれて、より本質的なところへ近付いていくことができました。
個人的にすごく印象的だったのは、プロトタイプを用いたユーザーテストです。あれを境にチームの姿勢が大きく変わったなと感じていて。我々はユーザー中心の立場からあれこれ考えて開発を進めていたわけですが、実際にユーザーテストを行うとこんなにも想像とギャップがあるのかと。それをクライアント様含め、肌で感じることができたのは非常に大きかったと思います。
フォーデジット 末成:
リアルタイムでユーザーの困っている姿を見ることで、スイッチが入ったというか。その場でどうやったら解消できるかとディスカッションを行ったり、目の前にいるこの人の体験をより良くしよう、ということをメンバー皆がリアルに描けるようになりました。
NTTデータ 青柳:
そうやって仮説を立てた瞬間にすぐにテストをして、次の週にはフィードバックを反映してプロトタイプを構築していく。このサイクルを作れたことはすごく大きかったですね。
フォーデジット 末成:
そして、それをメンバーが受け入れくれた点も大きいです。自分の作ったアイデアって、たとえ良くない結果が出ても大事にしてしまったりします。しかしメンバーはユーザーを目の前にしたときにその固執から離れて、きちんと向き合うことができた。プロセスやツールはデザインシンキングの手法ですが、それを受け入れることができないとワークしませんから。やはり場作りとメンバーのマインドセットが大切なのだと思います。
DXをどこからスタートするべきか?
NTTデータ 青柳:
デザインを事業活動に活かしていくために、最初にどういうところから始めれば良いか?というのは、たぶん皆さん思ってらっしゃるのではないかと思います。今回の事案では、NTTデータがゆうちょ銀行様をお支えし、オープンイノベーションでフォーデジットさんに入っていただく形で始まりました。デザイン活用の最初のプロセスはどうあるべきでしょうか。
フォーデジット 末成:
いろいろな始め方があると思いますが、抽象度の高いことを考える準備活動ができていると、我々は入っていきやすいのかなと思います。事業活動の中でゴールの見えないものに投資するというのは、なかなかハードルがあるかと思いますが…。
そしてある種の失敗を許容する文化も必要になってきます。デザインでは「スプリント」、開発では「アジャイル」という考え方がありますが、特定のゴールを目指すのではなく、何度もトライ&エラーを繰り返しながらブラッシュアップしていく。壁にぶつかれば違う方向に進む活動を繰り返して、目指すものに近づいていくわけです。
NTTデータ 青柳:
やはりデザインの思想を取り入れるのは企業活動そのものですから、何かスタートとゴールのあるプロジェクトというよりは、ある種定常的に繰り返しながら、顧客の求めているのに近づいていくということですね。
フォーデジット 末成:
はい。特にアプリやWebなどのデジタル領域では顕著ですが、一回作ったから終了ということにはなりません。マーケットの変化が常にある中で、今月100点を取ったものが来月も100点を取れるかというと、そうはならない。そういった変化に耐えうる形が、アジャイル開発や改善を続けていく活動だと考えています。
NTTデータ 青柳:
なるほど。さてご質問もいただいております。「今回はUX改善という領域でデザインシンキングを活用したという理解でよろしいでしょうか?」
はい、デザインシンキングの手法というのは、もちろんUX改善という領域でも活用できます。ただもう一つ、今回のワークショップでは、ゆうちょ銀行の皆様がユーザーの悩みを追体験するような形で行い、エンドユーザーの課題を発見していただいた。そういったユーザー体験の課題は、取りも直さず、ゆうちょ銀行様の経営的な課題へと繋がっていくのではないかと考えます。
フォーデジット 末成:
抽象度が高いところを描くのを得意としているのが、デザインシンキングの特徴です。対象は幅広く、エンプロイーの体験や、オフィスなど場の体験も含まれるでしょう。そのフレームワークは応用可能なもので、実際に弊社もUX改善以外にさまざまな領域でお仕事をご一緒させていただいています。
NTTデータ 青柳:
デザインシンキングのフレームワークはUX改善だけではなく、ある種の経営課題の発見とアイデア創出にも応用できると思いますし、そういった活動の一環なのではないかと思います。
さて、今回はゆうちょ通帳アプリの開発プロジェクトを振り返りました。事業活動へのデザイン活用はまだハードルも存在しますが、その道筋について、皆様とオンラインを通じて共有できたのではないでしょうか。末成さん、そしてお聞きの皆様、本日はありがとうございました。
NTT DATA Innovation Conference 2021
https://www.nttdata.com/jp/ja/innovation-conference/