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2024.09.25

NTTデータ金融分野のMVV策定プロセスをデザインの力で推進

NTTデータ金融分野が2024年度に新たにミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を発表しました。デザイン視点を取り入れるために、フォーデジットが策定支援として伴走しています。事業ビジョンや経営戦略を明文化したインナーブランディングの軸となるMVVの策定に、デザインがどう活かされたのか。そして、フォーデジットが担った役割とはどのようなものだったのか。MVVに合わせてウェブ社内報のリニューアルまで進めたプロジェクトについての、NTTデータ、フォーデジット両社リーダーによるクロストークです。

青柳 雄一 - Yuichi AOYAGI

NTTデータ
金融戦略本部
金融事業推進部 部長

末成 武大 - Takehiro SUENARI

フォーデジット
取締役COO

経営プロセスの改革に、デザインの力が有効だと確信

青柳:
今回のプロジェクトの前に、NTTデータの戦略を可視化するためのお手伝いをしていただきましたよね。

 

末成:
「BCE戦略」のときですね。

 

青柳:
NTTデータが金融機関のシステムにのみフォーカスしていたところから、クロスインダストリーな取り組みに広げていこうということで、「BCEーBeyond/Connect/Expand」という戦略を立てました。その戦略をより多くの人に伝わるように外部向けビジュアルをフォーデジットさんにサポートしてもらったのが、2021年度だったと思います。

 

末成:
そうですね。

 

青柳:
お互いに議論を重ねて可視化したおかげで戦略が非常にクリアになりました。ただ次の課題として、その戦略を伝えるコミュニケーションワードがないよね、という話が出てきました。つまり、社内にも社外にも、その戦略が目指す先にどういうForesightがあるのかがうまく伝えられていないのではないか、と。そのためにMission/Vision/Valueをあらためて整理、可視化しようというのが今回のプロジェクトの発端でした。

末成:
ちなみに、これまでに戦略について社外の会社と一緒に考えるような機会というのはあったのですか?

 

青柳:
なかったですね。基本的に企業戦略ですので、企業カルチャーを良く知る内部のメンバーで検討することが通例だからです。ただ、「ゆうちょ通帳アプリ」のプロジェクトでフォーデジットさんと一緒にお仕事をさせてもらった中で、「デザインで可視化すると戦略も変えられる」という話をされていましたし、経営戦略を改革するところにもデザインの考え方が使えるということをお客様へのご提案を通じて私自身が体験していたので、今回は思い切って、社外の企業に伴走をお願いしようと思いました。

 

末成:
金融分野は、安定的な基盤となっているトラディショナルなビジネスと、新しく再構築されているデジタルのビジネスの両方があり、それぞれに携わっている社員さんがいて、どちらにもお客様がいます。そうすると、関わり方によって持つイメージが全く違ってくるわけですよね。その土壌の中で、新しいバリューで何をやりたいのか、何を伝えたいのか、どういうビジョンを描くのかを、両者を巻き込んで理解してもらって一緒にやっていくのは、青柳さんがよくおっしゃっている「両利きの経営」的な難しさがあります。最初のキックオフでもその課題感からスタートしましたよね。

プロトタイプをもとに、活発な意見交換が繰り広げられる

青柳:
進め方としては、2022年の年末から翌年明けにかけて幹部社員から若手社員まで幅広くインタビューを実施し、3月にプロトタイプを出してもらいました。

 

末成:
そうですね。

 

青柳:
最初のプロトタイプは、「Financial」や「Enabler」といったトラディショナルに寄ったワーディングで、NTTデータのティピカルな印象からは外れていないものでした。ただ、金融分野の責任者である鈴木の「今までの姿と変わらないのでは」という指摘に加え「そもそも“金融”という言葉が必要なのかも考えよう」という議論になり、そこからは経営側の意思として考えようということになって、全役員・全事業部長を集めたワークショップを実施したんですよね。そこでの議論を経て、フォーデジットさんにご協力いただきつつまとめたのが「Beyond Finance みらいの社会のつくり手に」というワードにつながりました。

 

末成:
当初は、ヒアリング・リサーチ/ワークショップ/プロトタイプ作成/インタビュー/ブラッシュアップという通常プロセスをベースに進めながらも、さまざまな関係者、特に意思の強い方々が参加されることで、プロトタイプに対するフィードバックから再出発するようなかなりアドホックな展開になりました。アウトプットという“刺激物”に対して繰り返しフィードバックをもらうのは、振り返ってみるとデザインの一番本質的なプロセスだったように思います。

末成:
ちなみに、青柳さんを介していろんなフィードバックをいただいていましたが、青柳さんからは社内やフォーデジットの状況はどのように見えていたのですか?

 

青柳:
フォーデジットさんはプロダクトデザインの実績は豊富です。ただ、今回のような理念や戦略のデザインの経験はそれほどないだろうと思っていたので、感覚は掴みづらかったのではないかな、と感じていました。逆に我々、特に経営に関わるメンバーについては、普段から事業や組織のスローガンを考えることが多いため、一定の土地勘はありました。ただ、“刺激物”があったことにより、想定したイメージからかなりピボットするような意見が活発に出て、結果的に高みに昇っていくことができたので、うまく作用したのだと思っています。

 

末成:
プロトタイプを提案した際は、ムービーやドキュメントのテンプレートデザイン、発信用ビジュアルイメージまで考えてフルスイングしたのですが、「今までと変わらないのでは?」とフィードバックいただき(笑)

 

青柳:
そこまで作り込んでもらえたからこそ、いろいろな意見を出しやすくなったとは思いますよ。やはり可視化できていないと明確な意見は出しづらいし、具体的な話も出てきません。しかも社員インタビューによる現場の意見を反映してプロトタイプを作っている以上、今のビジネスを汲んだワードになるのは当然です。今回は経営の意思として、少し先の進路を指し示すことを重要視したからこそ、最終的にはそれを踏まえた「Beyond Finance みらいの社会のつくり手に」となったのは、ある意味で必然だったように感じます。

 

末成:
どこに光を当てるか、ですよね。今社員が取り組んでいることについてはウェブ社内報等の社内コミュニケーションチャネルでちゃんと光を当てているので、MVVについては「なりたい姿」や「こうありたい」に着地していいんだと思いました。

「変わろうとしている」がわかりやすく伝わったデザインの力

末成:
MVVとそれにまつわるデザインについては、社内での反響はどうでしたか?

 

青柳:
フォーデジットのアートディレクターが作ってくれた「Beyond Finance みらいの社会のつくり手に」を一枚絵で表現したビジュアルや、ロゴを使ったパーカー、キャップなどのグッズにしても、「何か変わろうとしているんだな」と多くの社員が受け取ってくれました。MVV策定に合わせて同時にリニューアルを進めてもらったウェブ社内報についても、同じベクトルのビジュアライズで良かったです。

末成:
ポップに仕上がりましたよね。今までの金融事業のイメージを踏襲した真面目なトーンのデザイン案も出しましたが、「もっと変わろうよ、変えようよ」というイメージであれば、今回のような方向性の方がいいと思いました。グッズ展開もしやすいですしね。

 

青柳:
やっぱり金融事業には「お堅い」というパブリックイメージがどうしてもあると思うんです。それをどう意図的に変えていくのか、ということです。

 

末成:
ウェブ社内報も、『金融Express』という媒体名がどちらかというと堅めなので、それを感じさせないロゴデザインを自主的に提案させてもらいました。グッズを作る時も、アートディレクターが悩んで電話をかけてきたので、「自分がもらって嬉しいものでないとその場限りになってしまうし、NTTデータの役員の方たちがどんな格好をしていたら『おお!』って思う?」みたいな話をしたんです。それで「ヒップホップな感じの金融のトップは熱い」という話になり、金融とヒップホップを掛け算するというギリギリのラインまでいった時に、ビジュアルとして面白くなったと思っています。

青柳:
役員の中にはヒップホップが盛り上がった時代に学生だった方もいたので、意外とときめいていましたね(笑)。グッズのお披露目会でもいろんな人たちの反応を見ましたが、今までにない雰囲気でしたし、「欲しい」と言って頂いた人もいましたよ。

 

末成:
せっかくなので、ちょっと着てみましょうか。

末成:
事業として金融を扱っている以上、ある程度は堅くしなければならないところはあったとしても、内部で共有するものはポップでもいいと思うんです。

 

青柳:
もちろん内部だけじゃないですけどね。

 

末成:
青柳さんは社外向けにもすでに「Beyond Finance みらいの社会のつくり手に」のデザインを使ってくれているんですよね?

 

青柳:
そうなんです。パワーポイントのテンプレートを作成し社内で共有させてもらいました。こういうものは、繰り返し使うことで目に触れる機会が増え、次第にイメージとして定着していくと思うので、社内外に浸透するまで使っていきたいと思います。

右脳と左脳を駆使して答えを出す難しさ

青柳:
苦労というところではどうでしたか。例えば経営戦略を立てることは左脳的なプロセスで、ロジカルに経営戦略を立てながら、それをどう右脳的に可視化してエモーショナルに伝えるのか、両方の側面があったと思います。

 

末成:
おっしゃる通りで、フォーデジットのこれまでの案件はどちらかというと一般顧客に向けたものが多く、従業員向けであっても使い勝手や体験にこだわってきました。「自分たちがどうなりたいか」を考えるうえでは、トップの意思がすごく重要だということはよくわかる一方で、左脳的な判断が重要なプロジェクトは簡単ではありませんでしたね。

青柳:
やはりそうですよね。

 

末成:
特にフォーデジットの場合は、トップも役員も日常的に社員と近いところにいて、上から方針を強く下ろすような社風でもありません。手がけてきたプロジェクトでも、経営視点で考えるような経験もそんなにしてきませんでした。

 

青柳:
ただ、フォーデジットさんのようなデザインファームはコンサルティングファームに近いところがあるので、ビジネスの思考的に近いところがありますよね。一方で我々はプラットフォームビジネスをしているので、装置産業的な面があり、誤解を恐れず言うなら、ともすると仕事が部品化しがちな場合があります。

 

末成:
仕組み化されている、ということですよね。

 

青柳:
そうです。決められたマニュアルやガイドライン通りに一定の枠内で金融システムを作る、という側面はどうしても必要です。そこは難しいところですよね。もしデザインの領域で「決められた通りに」ということになったら…

 

末成:
そもそも「必要ない」となりますね(笑)

 

青柳:
そこの難しさですよね。

お互いの良さを掛け合わせ、イノベーションを起こす

末成:
MVVの浸透や、ウェブ社内報のコンテンツ作りなど進んでいくと思いますが、今後の展開についてはいかがですか?

 

青柳:
今年度「Project Beyond」というものを立ち上げたんです。MVVが伝わる新たなグッズを考えたり、CMを作ったり、どうやったら金融分野が面白くなるのかをワークショップ的にやっていこうと考えています。メンバーは20代を中心とした若手社員に参加してもらっていますが、そこにぜひ、フォーデジットの皆さんにも参加してもらいたいと思っているんです。

 

末成:
面白そうですね。

 

青柳:
せっかく若手を集めたので、好き勝手やってもらいたいですよね。若手社員がデザインの力に触れるいい機会にもなるのではないかなと思います。

 

末成:
今回、フォーデジットにとっての一番の収穫は、NTTデータさんとの関係性の深化、信頼構築だったと思っています。これまでも一緒に仕事をさせてもらいましたが、社内に向いている姿は見たことがなかったので、違う角度から知ることができました。また、経営層含め社員の人たちの考えや想いを知れたことも、一緒に仕事をしている身としてはすごく意味があったと感じています。

 

青柳:
私のコンセプトは「オープンイノベーション」で、自分にないものを持っている人と掛け合わせることで、新しい価値を生み出したいといつも考えています。フォーデジットさんと一緒に手掛けた「ゆうちょ通帳アプリ」の開発でいうと、単に見た目優先でアプリを作ろうとしていたら多分ああはなっていないですし、おそらく猫のアニメーションもなかったでしょう。今回も同じで、我々だけでMVVを考えることはもちろんできましたが、外の目線を入れるために、そこはあえて一緒にやりたいなと。正直なところ、社内でもいろいろな意見がありましたが、アウトプットのクオリティーを理解しているからこそ、フォーデジットさんとやったら面白いものができるんじゃないかと思っていました。

末成:
今回の経験は、一緒にコラボレーションしているさまざまなプロジェクトにも生きてくるのだろうなと思っています。皆さんがどういう思いで働いていて、それに対して僕らがどう寄り添っていったらいいのかが見えるようになりましたし、解像度が上がったのはすごくよかったです。

 

青柳:
皆さんもイノベーターだと思いますが、私のような企業内イノベーターは、社内をうまく巻き込むことを得意にしていかないと、好き勝手やっているだけではイノベーションは生まれません。NTTデータとフォーデジットさんの良さがうまく掛け算できたのが、今回のプロジェクトだったと思っています。次はぜひ、外のお客様の体験やパーセプションをどう変えるかといった取り組みを、ぜひご一緒したいですね。

 

末成:
ありがとうございます。

編集・執筆 glassy&co.

撮影 吉田周平

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